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30台の弁護士の日記です。会社勤めをした後,法科大学院を経由して,なんとか弁護士になりました。チラシの裏(=ごく私的な備忘用)なので,有益な記事はありませんのであしからず。


by VNTR
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人のセックスを笑うな

芥川賞・直木賞が決まりました。芥川賞は阿部和重の『グランド・フィナーレ』。直木賞は角田光代の『対岸の彼女』。

直木賞は大本命が順当に受賞したというように感じました。もらうべき人がもらって安心したというところです。会見では角田さん涙を見せていらっしゃいましたね。

私は角田さんの小説はそれほど読んでいないのですが、エッセイはわりと好きです。『これからはあるくのだ』(文藝春秋)、『あしたはドロミテを歩こう』(岩波書店)、『愛してるなんていうわけないだろ』(中公文庫)といったあたりを楽しく読みました。

初エッセイの『愛してる……』には、たしか夜中にタクシーで好きなひとのところに飛んでいくということをテーマに書かれた文章が載っていたように記憶しています。角田さんには、それができない、なぜならそれは”負けた”ことになるから……という話でした。

実は私は、相手にそれをされたことがあります。タクシー代は1万円を軽く越える距離に住んでいる相手でしたが、電話をしていたら急に会いたくなった……ということで、深夜にタクシーをとばして来てくれました。ひどく嬉しかったのを鮮明に覚えています。

受賞作はまだ読んでませんが、近々読む予定です。たまたまいま、彼女の『菊葉荘の幽霊たち』(ハルキ文庫)を読んでいるところでした。


一方の芥川賞阿部氏の本は読んだことがないのでコメントできません。受賞作は児童性愛者の話だということですね。


さて、先日は今回の芥川賞候補作だった白岩玄の『野ブタ。をプロデュース』をとりあげましたが、今日は同じく芥川賞候補作だった、以下の作品などについて。

山崎ナオコーラ 『人のセックスを笑うな』 河出書房新社

コーラが好きで、ペンネームを山崎ナオ・コーラとしたという話をどこかで読みました。破天荒で好きです、そういう決め方(笑)。文藝賞受賞作。

ストーリはいたってシンプル。39歳既婚の美術専門学校講師のユリと、その学生である19歳のオレの恋愛を(淡々と)描いたものです。ちなみにユリは既婚です。

年上の女性と、若い男の子の不倫……というと、江國香織『東京タワー』を連想しますね。もっとも、『東京……』は本が実家にあって、詳細なストーリは忘れてしまいましたが。

ペンネームや、強烈なタイトルから、もっとスリリングなストーリを予測したのですが、まっこうから丹念に描いていくだけで、ハッとするような展開にはなりません。面白く読めますし、この設定で描くのは難易度が高いとは思うのですが、多少肩すかしをされたような気もします。ペンネームはともかく、どうしてこのタイトルなのでしょうか……?

しかし、上手いという印象は受けたので、今後も継続して読んでいきたい作家だと思います。


野沢尚 『龍時』 文春文庫

全然芥川賞・直木賞とは関係ありません(笑)。サッカー小説です。無名の高校生選手が、国際親善試合に招集されたことをきっかけに、単身スペインに渡り、サッカー選手としての成功をつかもうとしていく……という話です。

正直言って、私はサッカーは観ません。中学や高校の体育実技の授業でやらされましたから、ルールはもちろん知っていますが、観て面白いスポーツとは思わないという印象です。

しかし、この小説を読んで印象ががらっと変わりました。この小説の真骨頂は、まさに試合の描写にあると感じました。緊張感がガンガン伝わってくるシーンの連続で、完全にやられましたよ……。参りました。すばらしい小説です。

スポーツノンフィクションは好きで良く読みます。山際淳司、後藤正治、沢木耕太郎……などなど。それらノンフィクションのもつ独特の緊張感に勝るとも劣らないすごい描写です。さすが名手。

これだけ書けるヒトが突然自殺して亡くなったのは本当に残念でなりません。
by VNTR | 2005-01-15 00:22